魔法 世界 の 受付 嬢 に なりたい です。 #魔法世界の受付嬢になりたいです 夢が繋ぐ時間(とき)

書籍二巻、コミカライズにつきまして|まこの活動報告

魔法 世界 の 受付 嬢 に なりたい です

今日も忙しくも変わりないハーレでの仕事ももうすぐ終わりの時間だ。 明日は休みだし、夕飯はじっくりタレを漬け込んで鶏肉の照り焼きをにしよう、とナナリーは小腹が空いていることを自覚した。 受付の上を片付け始めていると、手元に影が出来て誰かが自分を覗き込んでいることに気づいた。 「ご依頼ですか?次の担当の者がもう間もなく来ますので少々お待ちいただけますか?」 「ナナリー・ヘル様。 貴方様にお願いがあり参りました」 夜勤の人に任せようと思ったが名乗ってもいないのに自分を指名されて驚いた。 しかし知らない、しかも身なりがきちんとしている事から貴族とも思える男性に様付けで呼ばれどこか落ち着かない。 「申し遅れました。 私はロックマン公爵家に仕えている者です」 「ロックマンの?」 思い浮かべたのは因縁の相手アルウェス・ロックマン、そしてその父である公爵の顔だ。 なぜ父親の方までよぎったかというと、ロックマンだったら使いの者を出すくらいなら自分で魔法で連絡か自らこちらまで出向いてくるだろう。 過去に公爵からロックマンの内偵のために舞踏会に参加させられた蓋をしておきたかった思い出に想起させられたのだ。 「実はアルウェス様が風邪を引かれまして」 「あいつが風邪?」 ありえないはずだ、とあまりにも怪訝な表情をしていたのか使者の方にぎょっとした顔をされた。 だって治癒術を心得自らにも応用出来るロックマンであれば、身体自体に防御魔法を施している。 今まで一度も風邪を引いたところを見たことなかったし聞いたこともなかった。 「騎士団の仕事が重なりまして、ついに身体のコントロールが不安定になったようです」 「へぇ…あいつが過労ね」 完璧すぎて忘れていたが、魔術師長に就任し、またシュテーダルの騒動の後から魔物が活性化して出動要請が頻発していると、これはニケが愚痴を零していたのだが、人の何倍も仕事をこなしているのだ。 並の人間だったらとうに音を上げているのだろうが、ロックマンは大変さを顔に出すような人間ではない。 だから周りもきっと大丈夫だろうと、当たり前のように仕事を振っていたのかもしれない。 「つきましてはヘル様」 「はい?」 「ぜひお見舞いに来ていただきたいのですが」 「はい??」 業務時間が終わりハーレを出ると使いの人が待っており、あれよあれよという間に馬車に乗せられてしまった。 何気にこの人も押しが強い、とロックマン公爵家は雇ってる人まで強引な人達なのかと顔が引き攣ってしまうのは許してほしい。 別にララに乗って行ってもよかったのだが、今回は隠す必要もないし、招待するのですからとまるで貴族のような待遇となっている。 「あっ、そういえぱお見舞いといえば何か手土産用意した方がよかったのかな」 「とんでもございません。 こちらがお呼びしたのですから、ヘル様ご自身に来ていただけるだけで十分でございます。 きっとアルウェス様もお喜びになりますよ」 「人に弱った姿あんまり見られたくない性格なんじゃないかと思うけどな……」 やけににこにこしている目の前の使者に、あまり期待されては困るなと小さなため息をついた。 ロックマンは普段は騎士団の宿舎で寝泊まりしているが、本格的に体調を崩しいい機会だからと休みを取って自宅で静養しているとのことだった。 「アルウェス様、お見舞いにいらした方をお連れしました」 お願いされてここまで来たのだが、まるで自発的に来たみたいに言われ訂正しようとする言葉を何とか飲み込んだ。 貴族の家であまり行儀の悪いことはしない方がいいだろう。 「誰……?」 「お邪魔するわよ」 「ヘル?」 ロックマンはダブルベッドよりも大きい寝台に、肩までしっかり掛け布団を掛けていた。 ロックマンはナナリーを見るとわずかに目を見開いた。 それでは私はこれで失礼します、と屋敷に入ってから案内してくれた執事は部屋を退出し扉を閉めてしまった。 実家よりも何倍も広い部屋に通され、ロックマンはずっとこちらから目を離さないしとりあえずベッドの傍にある一人がけのソファに腰掛けることにした。 「なんで君がいるの」 「ハーレに使用人が来て、あんたが風邪を引いたから見舞いに来てほしいって言われたの」 「余計な事を」 それがわざわざここまで来た相手に言うセリフかと、ついいつもの癖で言い返そうとしたが、いけない相手はロックマンとはいえ病人だと自分に言い聞かせた。 やはりロックマンが自分を呼んだわけではなかった。 想像していたとおり弱っているところは見られたくないらしく、憮然とした表情をしていてなんと可愛げがないのだろう。 しかし、声は若干掠れており、いつもの饒舌さはない。 頬は赤みを帯びていて汗もかいている。 憮然としているのは、相当に具合が悪いからというのもあったようだ。 額に乗せていたタオルで汗をぬぐおうかと手で触れると、普通の熱とは思えない熱さを感じた。 「ちょっとこれ本当に大丈夫なの!?」 「大丈夫。 少し制御がきいてないだけだから」 今度はタオルを外して額に直に触れると、微力だが魔力が漏れていることが分かった。 つまり、疲労が溜まりちょっとした魔力の暴走状態となっているところで体調を崩してしまったということだろう。 「まったく、無茶するんじゃないわよ」 今度は姿勢を正しくし、前髪を掬い上げ額を手で覆った。 息を吸い上げ呪文を唱えると、接触部分が熱と中和され生温い感触となった。 「魔力吸収の魔法か」 「さすがに知ってるのね」 静かに施しているがこの魔法、実は難しい。 学生時代に習得出来なかった魔法の一つだ。 魔力を吸収し、その魔力を自分の魔力へ変換する。 この変換の工程が難しく特に違う魔法型の相手となると格段に難易度が上がる。 なおかつ術者の魔力の容量が大きくないと今度は自分がペストクライブのような症状を起こしてしまう。 見た目に反しとても繊細なのだ。 「あぁ、やってもらうのは初めてだけどね」 最初は頼まれたから来てやった、というところだったが実際来て正解だったようだ。 魔力暴走は安静にしていれば徐々に解消されていくが、その間は目眩状態が続く。 それは結構辛いものなので、魔力吸収の魔法を使うことでその症状は収まるはずだ。 きっと明日にはすっきりとしているだろう。 「ヘルの、……ナナリーの手のひら冷たくて気持ちいいな」 急に名前で呼ばれナナリーはドキッとした。 名字でなく名前呼びになるのは、周りに人がいない時だけだ。 「まっまあね!魔力吸収は魔法型に由来するから!」 動揺により声が上擦ってしまった。 ロックマンは額に添えている手をさらに押し付けるように自らの手を被せてきた。 自分より大きなそれはやはり熱く、少しだけ魔法を強める。 楽になったのかロックマンの表情は先程より柔らかなものとなっている。 決してこの距離感のせいではないと言いたい。 「まさか君が来てくれるとは思わなかった」 「私もあんたのお見舞いに行く日が来るなんて思わなかった」 「ふふっ……そうだね。 そうだったね」 ロックマンは人を惑わせる綺麗な顔で無邪気に笑った。 そんなに嬉しそうにされたら、釣られて笑ってしまうではないか。 「これで貸しひとつね」 「いいよ。 ナナリーからのお願いなら、真っ先に駆け付けるよ」 「ばっ……何言ってるのよ!いいから早く寝なさいってばこの病人!」 今は絶対顔を赤くしてるのを笑われてる!ロックマンから顔を背けてむくれてみせる。 今度は自分が熱を出してしまいそうだ。 「ねぇナナリー、僕病人だから甘えてもいい?」 「何よもう……」 このまま顔を向けなかったら負ける気がして、仕掛け人形のようなぎこちない動きで首をロックマンの方へ向けた。 「名前呼んでくれない?」 それは簡単である意味魔力吸収魔法より難しいものだ。 しかし、今は公に付き合ってると認識されている仲なわけで。 いい加減慣れないと。 「おやすみ、アルウェス」 「うん、おやすみ。 ナナリー」 額に乗せていた手をぎゅっとアルウェスは握ると、そのまま静かに目を瞑った。 [newpage] 懐かしい夢を見た。 あれは、迷子係のお姉さんと一緒に眠った時のことだ。 いきなり見知らぬところに放り出され心細かった僕を助けてくれた、焦げ茶色の髪をした笑顔が眩しい人。 ずっと一緒にいてくれるという約束はさせてもらえなかったけど、彼女からもらった小箱を大事に抱え、横になる僕の目の前には優しく微笑んでくれるお姉さんがいて、とても安心したのを覚えている。 こんな時間がずっと続けばいいのになと、目を閉じたのだった。 瞼の裏がうっすら明るく、目を開けるとカーテンの隙間から朝陽が差し込んでいた。 胸元に心地よい重みを感じ身体を僅かに起こすと、そこには掛け布団に顔を埋め寝息を立てているナナリーがいた。 夢の続きか、と思考を放棄しようとしたところで、昨晩彼女が僕の部屋に来てくれた事を思い出した。 最初はついに幻想でも見えたのかと自嘲していたが、少し気難しいような顔をしている彼女を見てこれは現実だと確信したのだ。 夢に見るナナリーは、いつも僕に屈託のない笑みを向けてくれる。 なんと自分の都合のいいようにすり替えているのだろうか。 現状のような仲になったのは主に自分のせいだというのに。 だが今僕の左手がナナリーの右手を握ったままだというのも現実だ。 滑らかな彼女の手の甲から温かみを感じる。 その感触を楽しむように手の平で包むように撫でた。 まるでお姉さんの右手と自分の左手が離れなくなってしまった時のようだ。 ナナリーが魔力吸収をしてくれたおかげで身体はすっかり楽になった。 魔力暴走が落ち着くのを待つしかないと諦めていたところだったので、予想以上も早い回復を彼女に感謝しなければならない。 揶揄するように氷の魔女、なんて呼ぶ事もあるけれど実際彼女は優秀な魔法使いだ。 今まであまり素直に褒めたことはないけれど、彼女の実力を誰よりも認めているつもりだ。 魔法型が違う、しかも真反対の性質の魔力を吸収出来る人間など知る限りいない。 きっと自分もやろうと思えば出来るかもしれないけれど、氷を受け入れるとなると一つ間違えれば自身を凍らせる事に繋がりかねない。 かといって相殺してしまっては意味がない。 命懸けの魔法となるだろう。 それを彼女は躊躇いもなく、いとも簡単にやってのけた。 これは間違いなく君の勝ちだ。 なんて言ってしまったら、君は満足して僕から離れてしまうかもしれないから、バレていないうちは秘密にしておこうか。 上体を起こし彼女の頭にそっと触れた。 流れる水色の髪を耳に掛けてやると、長い睫毛が少し顔を出す。 すると瞼に力が入り静かに目を開いた。 「ん、あれっここは」 「おはよう、ナナリー」 「お、おはよう……」 最後もごもごと何か言っていたように見えたが、元々消え入りそうな声だったので聞き取れずじまいだった。 上半身だけ突っ伏す形となっていた彼女は、身体を捻りながら起こし痛いと漏らす。 恐らく手を握ったまま寝てしまった僕を起こさないように、ずっと傍にいてくれたのだろう。 ベッドのすぐ横にカートが置かれ、その上に彼女が軽食を取ったと思われる食器とグラスが残されていた。 一晩中こんな近くにいてくれていたというのにずっと寝てしまっていてとても勿体ない気持ちだ。 体調を崩した僕を見舞いに来てくれたのだから寝ていなければならなかった事には変わりないのだが、実に惜しいことをした。 「もう体調は大丈夫なの?」 お陰様で、と返そうとした言葉を飲み込んだ。 「うーん、もう少しだけ休もうかな」 「あっそ。 じゃあ私は」 手を当てて大きく欠伸する彼女の腕を引き込むと、彼女の身体は大きく傾き頭がごつんと僕の胸元でぶつかった。 あいたっと声を上げる彼女の耳元で僕は囁いた。 「まだ眠いようなら、一緒に寝よう?」 ずっと握りっぱなしだった方の手で彼女の指を絡める。 最初は手が開いたまま動かなかったが、徐々に指に力を込め握り返してくれた。 俯いたまま決して頭を上げようとしないナナリーの耳は赤く染っている。 今顔がどうなっているのか想像に容易い。 今日仕事は?と聞いたら休み、と一言だけ。 なら大丈夫だねと呟くと何が!とようやく顔を上げてくれたので、唇をよせ抗議する口を塞いだ。 まだ熱は収まりそうになさそうだ。

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魔法世界の受付嬢になりたいです(漫画)最終回のネタバレと感想!結末が気になる!|漫画ウォッチ

魔法 世界 の 受付 嬢 に なりたい です

玄関の扉が開くと同時、ほのかに甘い匂いが鼻腔をかすめた。 「お帰りなさいませ旦那様」 「ただいまフェゼル」 挨拶もそこそこに「どうぞこちらへ」と促すベテラン執事は、僕の次の言葉を完全にわかっているらしい。 いつも通り居間へと続く廊下を進んでいくと、香ばしい匂いはどんどん近くなってくる。 これは焼きたてのお菓子だろうか。 先導する彼はその正体を知っているのだろうが特に触れることはない。 僕を愛しい人たちが待つ部屋の前へ導くと、ではこれで、とにこやかな笑顔とともに下がっていった。 この居間は侯爵家の屋敷を建てるときに、貴族の生活に不慣れな妻が少しでもリラックスして過ごせるように、と希望を盛り込んで造らせたものだ。 簡易な調理台も備え付けており、彼女の仕事が早く終わる日には手料理を振る舞ってくれる。 それは僕にとって何よりもおいしいご馳走だ。 熟達した腕を持つ料理長の作る食事はもちろんおいしいけれど、彼女の手料理はそれに勝るとも劣らない幸せを煮詰めたような優しい味がする。 褒めたはずの妻には、料理長に失礼よ!と怒られたが、近くで聞いていた料理長は怒るどころか、奥様の手料理には敵いませんが、精進しますね、とにこにこと頷いていた。 先の執事もだが、料理長も召使もこの屋敷に勤める使用人たちは皆、同じような柔らかな表情で僕たち家族のことを見守ってくれている。 今も昔も相当彼らに甘やかされている事実には、自分の年齢を思えばいい大人が、と思わなくもないが素直に好意が嬉しくて、その優しさについ甘えてしまうのだから困ったものだ。 * 「父さま、おかえりなさい!!」 「ただいま、リリー」 ドアを開けた瞬間、勢いよく飛びついてきた娘を抱き上げる。 あのねあのね、と瞳を輝かせながら今日あった出来事を間髪入れずに話し出す娘に自然と頬がほころんだ。 部屋の中で待っていてくれたのは、可愛い娘と最愛の妻。 だが一方の妻はテーブルに突っ伏したまま、ぴくりとも動かない。 名前を呼び掛けるが返事はなく、水色の髪が広がるテーブルの中央には焼きたてだろう僕の好物が並んでいた。 「ポルカ? 作ってくれたんだね」 この屋敷に充満する甘い匂いの正体。 それを見て、今日は自分の誕生日だったことを今更ながら思い出した。 「ありがとう。 所長になったばかりで大変なのに大丈夫?」 就任を機に以前にも増してがむしゃらに仕事をこなすナナリーは、近頃疲労の色が消えない。 完全に眠っているようでそばへ近付いても顔をあげる気配のない彼女に、無理をさせてしまったのでは、と申し訳ない気持ちが募る。 僕のために頑張ってくれることはとても嬉しいが、彼女が体調を崩してしまっては元も子もない。 こんなところで寝てしまっては疲れも取れないだろう。 「母さまを上に連れて行くから、リリーはそのまま食べてていいよ」 娘の頭をポンポンと撫でてからその場に下ろし、代わりに椅子に座ったまま眠る妻をそっと抱き上げる。 固く瞳を閉じた彼女は、何の抵抗もなくすんなりと身体を預けてくれた。 「そのまま上からもどってこないでしょ~父さま」 こんな家に住みたかったの!とこの居間を見て興奮気味に騒ぐナナリーには当時思わず笑ってしまったが、実際屋敷にいるとき彼女はほとんどの時間をここで過ごす。 そのまま疲れ切った彼女は眠ってしまうことも多く、それをベッドへと運ぶのは僕の役目だ。 すやすやと幸せそうに眠る彼女を見ていたくて寝室から戻れなくなることはよくあるので、ぶうっと頬を膨らませてみせる娘には言い返す言葉もない。 だがリリーも僕を本気で咎めるつもりはないらしく、みんなで一緒がいいから母さまが起きたら食べようね、とすぐに笑顔を浮かべた。 話の流れを迅速に察知し、私と一緒に遊びましょうリリー様、とすかさず名乗りを挙げた侍女には頭が上がらない。 また使用人に甘やかされてしまい苦笑する。 僕の誕生日を祝いたいと言ってくれる可愛い娘にありがとうと告げて。 もしナナリーが起きなくても、今日だけは必ずここへ戻ろうと心に刻む。 大きな侯爵邸のなかにある小さな一部屋。 そこが、僕たち家族が幸せを築く場所。 ここには僕がずっと求めてやまなかった、溢れんばかりのぬくもりや優しさが積もっている。 * 二階へと続く階段をのぼっていくと、腕の中のナナリーが僅かに身じろいだ。 揺れで目が覚めたのかと顔を見やれば、ほとんど動いていない唇が紡ぐ小さな音が耳に届いた。 「私こそ……ありがとうございます」 今運ばれている状況に対してだろうが、お礼を言われたことに目を瞬く。 いつもの彼女ならば、自分で歩けるから下ろして!と言い張るのが常なのに。 「あれ、今日はやけに素直だな」 思ったままに感想を述べても、特に反論が返ってくることもない。 まだ夢見心地、微睡みの中にいるのだろう。 眠さも限界なのか美しい碧を見ることは叶わないが、なぜか目蓋がピクピクと小さく動いていることに気が付いた。 「どうしたの?」 「顔が、見たくて」 「なにそれ。 可愛いなぁ」 またも飛び出す思いがけない言葉。 むにゃむにゃ頑張る姿が愛しくて、その小さな唇に優しい口づけを落とした。 触れた熱にふわっと頬を緩ませた彼女は、そのままスースーと規則正しい寝息を立て始め、意識を手放した彼女の全体重が腕にのしかかる。 支える腕の位置を直し、起こさないように気を付けながら、そっと寝室へと歩みを進めた。 * * * ふわふわと身体を包み込むお日様のような温かな香り。 私が一番安心する香りの中で意識が少しずつ覚醒していく。 (……あぁ、アルウェスだ) 自分を抱きしめるしなやかで逞しい腕が心地よくて、無意識に肌をすり寄せた。 「おはようナナリー」 穏やかな声で名前を呼ばれゆっくり重たい首を回すと、思った通りの人物が柔らかな微笑みを浮かべて私を見ていた。 そのどこまでも整った顔をぼーっと眺めながら疑問に思う。 (ここ、どこ?) だが訊ねるまでもなくすぐに答えを思い出す。 大きなベッドを囲む白い天蓋。 ここは侯爵邸の寝室だ。 なぜか、もう見慣れたはずのこの場所がどこか遠く感じる。 (おかしいな……? 寮にいたんじゃなかったっけ) 「……おはよ。 私、いつの間に……?」 「また居間で眠ってたんだよ。 ポルカ、作ってくれてありがとう」 (居間? ポルカ?) 寝起きのせいか、頭がうまく働かない。 それとも、さっきまで見ていた夢のせいか。 言葉を頼りに自分の頭にゆっくり再起動をかけていくと、だんだんはっきりしてくる記憶。 そうだ、今日は彼の誕生日。 一緒にポルカを作ろうとリリーと約束をして…… (あぁ、そうか。 そう笑いかけると、アルウェスは目を瞬いた。 きょとんとする顔がなんだかおかしい。 「私たち、告白しても……それまでと変わらないままで」 「うん」 「なにかと勝負とか、喧嘩とかばっかりしてて」 「うん、そうだったね」 「今思えば笑っちゃうけど、でも一生懸命……あなたに、恋をしていて」 「……うん」 「そんな遠回りした時間がね、すごく……愛しくて」 「うん、僕もだよ」 夢を思い出しながらぽつりぽつりと話せば、そんな取り留めもない話をアルウェスは頷きながら聞いてくれた。 当時を思い出せば、なんて不器用な恋をしていたんだろう。 好きだと自覚した後も、長年培った関係を簡単には崩せず、一向に素直になれない意地っ張りな私。 そんな私に呆れることもなく、今までと変わらない距離で根気強く付き合ってくれたアルウェス。 特別な関係を築くまでには時間がかかったけれど、その分、今こうして自然と隣で過ごせることが奇跡のように大切に思える。 「……本当に今日はどうしたの」 「え?」 「素直な君は珍しいから」 少し眉を下げながら、それでも嬉しそうに微笑むアルウェスの言葉に固まる。 (珍しい……あれ? いつもは、どうしていたんだっけ?) 記憶を手繰り寄せると、程無くして思い出すのは、つい意地を張って可愛げのない態度ばかりを取る自分の姿。 (あぁ、そうだ。 どうやら私は、まだ寝惚けていたらしい。 「……素直じゃ、いけないの」 赤裸々に語ってしまったことが無性に恥ずかしくてぶすっと文句を言うと、いや、とアルウェスは笑顔で首を振った。 「可愛すぎて困ってるよ」 「~~そういうのいいから!!」 僕の奥さんはいつだって可愛いけど、と赤面ものの台詞を平然と続けようとするアルウェスの顔面にボスッと枕を叩きつける。 まったく、元・女タラシは油断ならない。 痛い、と文句を言いつつも楽しげに笑っている彼は、以前より表情がよく出るようになった。 飾らない笑顔にきゅんと胸がしまる。 さっきまで夢で昔の彼を見ていたから、なおさら嬉しく感じてしまうのだろう。 「それでこそ君だね」 「ちょっと。 それ、褒めてる?」 むすっと唇を尖らせる私に、もちろん、とリリーを褒めるのと同じように頭をポンポンと撫でてくる。 子ども扱いは気に食わないが今日は彼の誕生日。 大人な私はおおめに見てあげることにしよう。 ここだけの話、温かな手に撫でられるのは嫌いではない。 でも素直に受け入れるのはやっぱり意地っ張りな自分が邪魔をして、ボフンと真っ白なシーツへと顔をうずめた。 そんな私をくすくす笑いながら、リリーが下で待ってるよ、と言われてハッとする。 もしかして寝こけて一緒にお祝いをする約束をすっぽかしたかと心配になったが、聞けばまだそんなに時間は経っていないようだ。 よかった。 大切な娘を悲しませなくて済んだことに、ほっと胸を撫でおろす。 「さあ、みんなで一緒に食べようか」 「うん」 差し出された大きな手を取って、ベッドから起き上がる。 繋いだ手をそのままに歩き出そうとして。 まだ彼に、大切なことを伝えていなかったことを思い出した。 「ねぇ。 ……アルウェス」 結婚してから変えたお互いの呼び名。 いまだ気恥ずかしくてあまり呼べない彼の名前を口にすれば、ん?と優しく細められた赤い瞳と視線が交わる。 「誕生日おめでとう」 生まれてきてくれて、ありがとう。 この特別な日を迎える度、幸せそうに綻ぶアルウェスの笑顔を見る度、私は何度だって思うんだろう。 あなたと出会えてよかった、と。 =============== 「後ろを向くか前を向くか、でも目ん玉はどこにも行けないのさ」 緑の箱に書いてあった文字。 この箱には自分の過去か未来を覗くことのできる魔法が仕込まれている、と仮説を立てて。 番外編SS2では、6のときと逆のことが起きたのかな、と感じたので。 本編では6が自分の過去を覗いて、その間はちび6が入れ替わりで現代(彼にとっての未来)を覗いて。 (覗くというか身体ごと来てたけど) 今回のは7が自分の未来を覗いて、その間は大人7が入れ替わりで現代(彼女にとっての過去)を覗いていたのでは?? というのを書きたかった。 すべては妄想なので細かい考察や辻褄は迷子です… 一番言いたいのは、きっとあれは夢落ちじゃない!という期待と、 将来の67には一緒に過ごした時間を慈しみながらずっと幸せでいてほしい!という願望です。 (あれ、2つある).

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魔法世界の受付嬢になりたいです(漫画)最終回のネタバレと感想!結末が気になる!|漫画ウォッチ

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玄関の扉が開くと同時、ほのかに甘い匂いが鼻腔をかすめた。 「お帰りなさいませ旦那様」 「ただいまフェゼル」 挨拶もそこそこに「どうぞこちらへ」と促すベテラン執事は、僕の次の言葉を完全にわかっているらしい。 いつも通り居間へと続く廊下を進んでいくと、香ばしい匂いはどんどん近くなってくる。 これは焼きたてのお菓子だろうか。 先導する彼はその正体を知っているのだろうが特に触れることはない。 僕を愛しい人たちが待つ部屋の前へ導くと、ではこれで、とにこやかな笑顔とともに下がっていった。 この居間は侯爵家の屋敷を建てるときに、貴族の生活に不慣れな妻が少しでもリラックスして過ごせるように、と希望を盛り込んで造らせたものだ。 簡易な調理台も備え付けており、彼女の仕事が早く終わる日には手料理を振る舞ってくれる。 それは僕にとって何よりもおいしいご馳走だ。 熟達した腕を持つ料理長の作る食事はもちろんおいしいけれど、彼女の手料理はそれに勝るとも劣らない幸せを煮詰めたような優しい味がする。 褒めたはずの妻には、料理長に失礼よ!と怒られたが、近くで聞いていた料理長は怒るどころか、奥様の手料理には敵いませんが、精進しますね、とにこにこと頷いていた。 先の執事もだが、料理長も召使もこの屋敷に勤める使用人たちは皆、同じような柔らかな表情で僕たち家族のことを見守ってくれている。 今も昔も相当彼らに甘やかされている事実には、自分の年齢を思えばいい大人が、と思わなくもないが素直に好意が嬉しくて、その優しさについ甘えてしまうのだから困ったものだ。 * 「父さま、おかえりなさい!!」 「ただいま、リリー」 ドアを開けた瞬間、勢いよく飛びついてきた娘を抱き上げる。 あのねあのね、と瞳を輝かせながら今日あった出来事を間髪入れずに話し出す娘に自然と頬がほころんだ。 部屋の中で待っていてくれたのは、可愛い娘と最愛の妻。 だが一方の妻はテーブルに突っ伏したまま、ぴくりとも動かない。 名前を呼び掛けるが返事はなく、水色の髪が広がるテーブルの中央には焼きたてだろう僕の好物が並んでいた。 「ポルカ? 作ってくれたんだね」 この屋敷に充満する甘い匂いの正体。 それを見て、今日は自分の誕生日だったことを今更ながら思い出した。 「ありがとう。 所長になったばかりで大変なのに大丈夫?」 就任を機に以前にも増してがむしゃらに仕事をこなすナナリーは、近頃疲労の色が消えない。 完全に眠っているようでそばへ近付いても顔をあげる気配のない彼女に、無理をさせてしまったのでは、と申し訳ない気持ちが募る。 僕のために頑張ってくれることはとても嬉しいが、彼女が体調を崩してしまっては元も子もない。 こんなところで寝てしまっては疲れも取れないだろう。 「母さまを上に連れて行くから、リリーはそのまま食べてていいよ」 娘の頭をポンポンと撫でてからその場に下ろし、代わりに椅子に座ったまま眠る妻をそっと抱き上げる。 固く瞳を閉じた彼女は、何の抵抗もなくすんなりと身体を預けてくれた。 「そのまま上からもどってこないでしょ~父さま」 こんな家に住みたかったの!とこの居間を見て興奮気味に騒ぐナナリーには当時思わず笑ってしまったが、実際屋敷にいるとき彼女はほとんどの時間をここで過ごす。 そのまま疲れ切った彼女は眠ってしまうことも多く、それをベッドへと運ぶのは僕の役目だ。 すやすやと幸せそうに眠る彼女を見ていたくて寝室から戻れなくなることはよくあるので、ぶうっと頬を膨らませてみせる娘には言い返す言葉もない。 だがリリーも僕を本気で咎めるつもりはないらしく、みんなで一緒がいいから母さまが起きたら食べようね、とすぐに笑顔を浮かべた。 話の流れを迅速に察知し、私と一緒に遊びましょうリリー様、とすかさず名乗りを挙げた侍女には頭が上がらない。 また使用人に甘やかされてしまい苦笑する。 僕の誕生日を祝いたいと言ってくれる可愛い娘にありがとうと告げて。 もしナナリーが起きなくても、今日だけは必ずここへ戻ろうと心に刻む。 大きな侯爵邸のなかにある小さな一部屋。 そこが、僕たち家族が幸せを築く場所。 ここには僕がずっと求めてやまなかった、溢れんばかりのぬくもりや優しさが積もっている。 * 二階へと続く階段をのぼっていくと、腕の中のナナリーが僅かに身じろいだ。 揺れで目が覚めたのかと顔を見やれば、ほとんど動いていない唇が紡ぐ小さな音が耳に届いた。 「私こそ……ありがとうございます」 今運ばれている状況に対してだろうが、お礼を言われたことに目を瞬く。 いつもの彼女ならば、自分で歩けるから下ろして!と言い張るのが常なのに。 「あれ、今日はやけに素直だな」 思ったままに感想を述べても、特に反論が返ってくることもない。 まだ夢見心地、微睡みの中にいるのだろう。 眠さも限界なのか美しい碧を見ることは叶わないが、なぜか目蓋がピクピクと小さく動いていることに気が付いた。 「どうしたの?」 「顔が、見たくて」 「なにそれ。 可愛いなぁ」 またも飛び出す思いがけない言葉。 むにゃむにゃ頑張る姿が愛しくて、その小さな唇に優しい口づけを落とした。 触れた熱にふわっと頬を緩ませた彼女は、そのままスースーと規則正しい寝息を立て始め、意識を手放した彼女の全体重が腕にのしかかる。 支える腕の位置を直し、起こさないように気を付けながら、そっと寝室へと歩みを進めた。 * * * ふわふわと身体を包み込むお日様のような温かな香り。 私が一番安心する香りの中で意識が少しずつ覚醒していく。 (……あぁ、アルウェスだ) 自分を抱きしめるしなやかで逞しい腕が心地よくて、無意識に肌をすり寄せた。 「おはようナナリー」 穏やかな声で名前を呼ばれゆっくり重たい首を回すと、思った通りの人物が柔らかな微笑みを浮かべて私を見ていた。 そのどこまでも整った顔をぼーっと眺めながら疑問に思う。 (ここ、どこ?) だが訊ねるまでもなくすぐに答えを思い出す。 大きなベッドを囲む白い天蓋。 ここは侯爵邸の寝室だ。 なぜか、もう見慣れたはずのこの場所がどこか遠く感じる。 (おかしいな……? 寮にいたんじゃなかったっけ) 「……おはよ。 私、いつの間に……?」 「また居間で眠ってたんだよ。 ポルカ、作ってくれてありがとう」 (居間? ポルカ?) 寝起きのせいか、頭がうまく働かない。 それとも、さっきまで見ていた夢のせいか。 言葉を頼りに自分の頭にゆっくり再起動をかけていくと、だんだんはっきりしてくる記憶。 そうだ、今日は彼の誕生日。 一緒にポルカを作ろうとリリーと約束をして…… (あぁ、そうか。 そう笑いかけると、アルウェスは目を瞬いた。 きょとんとする顔がなんだかおかしい。 「私たち、告白しても……それまでと変わらないままで」 「うん」 「なにかと勝負とか、喧嘩とかばっかりしてて」 「うん、そうだったね」 「今思えば笑っちゃうけど、でも一生懸命……あなたに、恋をしていて」 「……うん」 「そんな遠回りした時間がね、すごく……愛しくて」 「うん、僕もだよ」 夢を思い出しながらぽつりぽつりと話せば、そんな取り留めもない話をアルウェスは頷きながら聞いてくれた。 当時を思い出せば、なんて不器用な恋をしていたんだろう。 好きだと自覚した後も、長年培った関係を簡単には崩せず、一向に素直になれない意地っ張りな私。 そんな私に呆れることもなく、今までと変わらない距離で根気強く付き合ってくれたアルウェス。 特別な関係を築くまでには時間がかかったけれど、その分、今こうして自然と隣で過ごせることが奇跡のように大切に思える。 「……本当に今日はどうしたの」 「え?」 「素直な君は珍しいから」 少し眉を下げながら、それでも嬉しそうに微笑むアルウェスの言葉に固まる。 (珍しい……あれ? いつもは、どうしていたんだっけ?) 記憶を手繰り寄せると、程無くして思い出すのは、つい意地を張って可愛げのない態度ばかりを取る自分の姿。 (あぁ、そうだ。 どうやら私は、まだ寝惚けていたらしい。 「……素直じゃ、いけないの」 赤裸々に語ってしまったことが無性に恥ずかしくてぶすっと文句を言うと、いや、とアルウェスは笑顔で首を振った。 「可愛すぎて困ってるよ」 「~~そういうのいいから!!」 僕の奥さんはいつだって可愛いけど、と赤面ものの台詞を平然と続けようとするアルウェスの顔面にボスッと枕を叩きつける。 まったく、元・女タラシは油断ならない。 痛い、と文句を言いつつも楽しげに笑っている彼は、以前より表情がよく出るようになった。 飾らない笑顔にきゅんと胸がしまる。 さっきまで夢で昔の彼を見ていたから、なおさら嬉しく感じてしまうのだろう。 「それでこそ君だね」 「ちょっと。 それ、褒めてる?」 むすっと唇を尖らせる私に、もちろん、とリリーを褒めるのと同じように頭をポンポンと撫でてくる。 子ども扱いは気に食わないが今日は彼の誕生日。 大人な私はおおめに見てあげることにしよう。 ここだけの話、温かな手に撫でられるのは嫌いではない。 でも素直に受け入れるのはやっぱり意地っ張りな自分が邪魔をして、ボフンと真っ白なシーツへと顔をうずめた。 そんな私をくすくす笑いながら、リリーが下で待ってるよ、と言われてハッとする。 もしかして寝こけて一緒にお祝いをする約束をすっぽかしたかと心配になったが、聞けばまだそんなに時間は経っていないようだ。 よかった。 大切な娘を悲しませなくて済んだことに、ほっと胸を撫でおろす。 「さあ、みんなで一緒に食べようか」 「うん」 差し出された大きな手を取って、ベッドから起き上がる。 繋いだ手をそのままに歩き出そうとして。 まだ彼に、大切なことを伝えていなかったことを思い出した。 「ねぇ。 ……アルウェス」 結婚してから変えたお互いの呼び名。 いまだ気恥ずかしくてあまり呼べない彼の名前を口にすれば、ん?と優しく細められた赤い瞳と視線が交わる。 「誕生日おめでとう」 生まれてきてくれて、ありがとう。 この特別な日を迎える度、幸せそうに綻ぶアルウェスの笑顔を見る度、私は何度だって思うんだろう。 あなたと出会えてよかった、と。 =============== 「後ろを向くか前を向くか、でも目ん玉はどこにも行けないのさ」 緑の箱に書いてあった文字。 この箱には自分の過去か未来を覗くことのできる魔法が仕込まれている、と仮説を立てて。 番外編SS2では、6のときと逆のことが起きたのかな、と感じたので。 本編では6が自分の過去を覗いて、その間はちび6が入れ替わりで現代(彼にとっての未来)を覗いて。 (覗くというか身体ごと来てたけど) 今回のは7が自分の未来を覗いて、その間は大人7が入れ替わりで現代(彼女にとっての過去)を覗いていたのでは?? というのを書きたかった。 すべては妄想なので細かい考察や辻褄は迷子です… 一番言いたいのは、きっとあれは夢落ちじゃない!という期待と、 将来の67には一緒に過ごした時間を慈しみながらずっと幸せでいてほしい!という願望です。 (あれ、2つある).

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